DV-Xα法プログラムにおいて

Slater Transition Stateの計算や

イオン化エネルギーの計算、

1電子励起状態の計算などを行う際の

電子の移動方法



【メタン CH4を例に取ります。

計算条件は以下の通りです。

教育用分子軌道計算システムeduDV“td14n”または“td14s”を使ってメタン(C-H = 1.087Å)
 の計算をし、HOMOからLUMOへ0.5電子を移動(Slater Transition State)する。

・F25(Td対称)は、A1, A2, E, E, T1, T1, T1, T2, T2, T2の各対称ブロックから構成されている。

・F05の中程のnsym, isyml(i), jsyml(i)は

  メタンの分子軌道エネルギー準位

 となっている。


【ノンスピン版】の場合

1.基底状態の計算を行い、収束させます。


2.F08Eを見て、どの分子軌道からいくつの電子を取り去るのか、
  どの分子軌道にいくつの電子を加え入れるのか、などを決めます。

  メタンの分子軌道エネルギー準位

  今回の計算では、1t2軌道(HOMO)から0.5電子を取り去って、
  2t2軌道(LUMO)に0.5電子を加え入れることにします。


3.ディレクトリを新規作成し、基底状態の計算のF26, F17, F25をコピーします。

  メタンの分子軌道エネルギー準位


4.コピーしたF26をエディタで開き、以下の黄色の箇所を編集作業します。

  メタンの分子軌道エネルギー準位
  メタンの分子軌道エネルギー準位
  メタンの分子軌道エネルギー準位

  黄色の箇所を含む行の数字の意味は、以下の通りです

No. 書式 変数名 意味
01 F10.5 TL クラスターの全電子数
(1つめの電子の数を変化させるMOと電子数の指定)
02 I5 LSY1 電子数変化させるMOの属する対称ブロック番号
03 I5 JLV1 電子数変化させるMOの対称ブロックにおける準位番号
04 F10.5 REMV1 増減させたい電子数
(2つめの電子の数を変化させるMOと電子数の指定)
05 I5 LSY2 電子数変化させるMOの属する対称ブロック番号
06 I5 JLV2 電子数変化させるMOの対称ブロックにおける準位番号
07 F10.5 REMV2 増減させたい電子数
(3つめの電子の数を変化させるMOと電子数の指定)
08 I5 LSY3 電子数変化させるMOの属する対称ブロック番号
09 I5 JLV3 電子数変化させるMOの対称ブロックにおける準位番号
10 F10.5 REMV3 増減させたい電子数

  今回の計算では、1t2軌道(HOMO)から0.5電子を取り去って
  2t2軌道(LUMO)に0.5電子を加え入れることにしますので、

  LSY1 = 8 (F25におけるT2ブロックは8番目)
  JLV1 = 1 (T2ブロックにおいて、内殻から数えて1番目の分子軌道)
  REMV1 = -0.5 (0.5電子を取り去る)

  LSY2 = 8 (F25におけるT2ブロックは8番目)
  JLV2 = 2 (T2ブロックにおいて、内殻から数えて2番目の分子軌道)
  REMV2 = 0.5 (0.5電子を加え入れる)

  となります。

  すなわち、F26は以下のようになります

  メタンの分子軌道エネルギー準位
  メタンの分子軌道エネルギー準位
  メタンの分子軌道エネルギー準位


5.編集したF26を上書き保存し、“dvscat n”でSlater Transition Stateの計算
  (ノンスピン版)を収束するまで繰り返し行います。

  収束した後のF08Eは以下の通りです。

  メタンの分子軌道エネルギー準位



【スピン版】の場合

1.基底状態の計算を行い、収束させます。


2.F08Eを見て、どの分子軌道からいくつの電子を取り去るのか、
  どの分子軌道にいくつの電子を加え入れるのか、などを決めます。

  メタンの分子軌道エネルギー準位

  今回の計算では、1t2(up)軌道(HOMO)から0.5電子を取り去って、
  2t2(down)軌道(LUMO)に0.5電子を加え入れることにします。


3.ディレクトリを新規作成し、基底状態の計算のF26, F17, F25をコピーします。

  メタンの分子軌道エネルギー準位


4.コピーしたF26をエディタで開き、以下の黄色の箇所を編集作業します。

  メタンの分子軌道エネルギー準位
  メタンの分子軌道エネルギー準位
  メタンの分子軌道エネルギー準位

  黄色の箇所を含む行の数字の意味は、以下の通りです

  
No. 書式 変数名 意味
01 F10.5 TL クラスターの全電子数
(1つめの電子の数を変化させるMOと電子数の指定)
02 I3 KSP1 upスピン軌道なら“1”、downスピン軌道なら“2”
03 I3 LSY1 電子数変化させるMOの属する対称ブロック番号
04 I3 JLV1 電子数変化させるMOの対称ブロックにおける準位番号
05 F10.5 REMV1 増減させたい電子数
(2つめの電子の数を変化させるMOと電子数の指定)
06 I3 KSP2 upスピン軌道なら“1”、downスピン軌道なら“2”
07 I3 LSY2 電子数変化させるMOの属する対称ブロック番号
08 I3 JLV2 電子数変化させるMOの対称ブロックにおける準位番号
09 F10.5 REMV2 増減させたい電子数
(3つめの電子の数を変化させるMOと電子数の指定)
10 I3 KSP3 upスピン軌道なら“1”、downスピン軌道なら“2”
11 I3 LSY3 電子数変化させるMOの属する対称ブロック番号
12 I3 JLV3 電子数変化させるMOの対称ブロックにおける準位番号
13 F10.5 REMV3 増減させたい電子数

  今回の計算では、1t2(up)軌道(HOMO)から0.5電子を取り去って
  2t2(down)軌道(LUMO)に0.5電子を加え入れることにしますので、

  KSP1 = 1 (up)
  LSY1 = 8 (F25におけるT2ブロックは8番目)
  JLV1 = 1 (T2ブロックにおいて、内殻から数えて1番目の分子軌道)
  REMV1 = -0.5 (0.5電子を取り去る)

  KSP2 = 2 (down)
  LSY2 = 8 (F25におけるT2ブロックは8番目)
  JLV2 = 2 (T2ブロックにおいて、内殻から数えて2番目の分子軌道)
  REMV2 = 0.5 (0.5電子を加え入れる)

  となります。

  すなわち、F26は以下のようになります

  メタンの分子軌道エネルギー準位
  メタンの分子軌道エネルギー準位
  メタンの分子軌道エネルギー準位


5.編集したF26を上書き保存し、“dvscat s”でSlater Transition Stateの計算
  (スピン版)を収束するまで繰り返し行います。

  収束した後のF08Eは以下の通りです。

  メタンの分子軌道エネルギー準位



【書式の説明】

# F10.5: 実数形式で全部で10桁、小数点以下5桁(0000.00000)

# I5: 整数形式で全部で5桁(00000)

# I3: 整数形式で全部で3桁(000)

【用語の補足説明】

# MO:分子軌道

# 対称ブロック番号:F25における対称ブロックの順番
 (例:5a2軌道なら、F25におけるA2ブロックが2番目であれば“2”)

# 準位番号:F08Eに示されるMOの名称から判断、属する対称ブロック
      において、内殻から数えて何番目のエネルギー準位の
      MOであるかという順番
 (例:5a2軌道なら、A2ブロックにおいて5番目のMOなので“5”)

# 増減させたい電子数:-0.50000なら、0.5個の電子の放出することになる
           0.50000なら、0.5個の電子を受け取ることになる

# Slater Transition Stateの計算の場合は、遷移元MOから0.5電子を減じ、遷移先MOに0.5電子を加えます。

# イオン化エネルギーの計算の場合は、イオン化エネルギーを計算したいMOから0.5電子を減じます。

# 1電子励起状態の計算の場合は、例えばHOMOから1電子を減じ、LUMOに1電子を加えます。


# 本html文書は、DV-Xα研究協会のspd部会のメンバーで作成いたしました。

【参考文献】

1) 足立裕彦, “1.4 ハートリー・フォック・スレーター法”, 書籍「量子材料化学入門 − DV-Xα法からのアプローチ −」, 三共出版, pp. 15-23 (1991年).

2) 関根利香, “遷移状態の計算について”, DV-Xα研究協会会報, Vol. 8(No. 2), pp. 310-312 (1995年).