【5】DV-Xα入力データの準備

〜CIFからDV-Xα入力データF05を作成します。〜
◎1.CIF(Crystallographic Information File)は、単結晶のX線構造解析システム(例えば、(株)リガクのteXsanやCrystalStructureなど)より出力できます。

【補足】:計算に必要な原子は、水素原子も含めてすべて座標決定されていることが必要です。DV-Xα計算では座標の最適化は行いませんので、単結晶X線構造解析の精度にDV-Xα計算の精度も依存することになります。水素原子の座標が決定されていない場合は幾何計算で発生させるなどして、CIFにはDV-Xα計算に必要な全原子の座標を書き込んでおいてください。うまくいかないときは、この下の◎15.【補足】の欄を参照してください。CIFの中でDV-Xα計算に用いる情報は、原子の種類(原子番号)と座標だけです。原子の占有率や温度因子などの情報はDV-Xα計算には反映されません(原子にdisorderがある場合は、そのいずれか一方だけの計算とすればよいと思います)。

【補足】:ここで説明しているCIFは、単結晶X線構造解析のCIFです。粉末X線構造解析のCIFの場合は、他の手法でDV-Xα入力データF05を作成する必要があります。必要でしたら坂根までお問い合わせください。
◎2.まず、Molda for Windowsを起動し、ファイル(F)-インポート-CIF(*.cif)でCIFを読み込みます。

【補足】:CIFファイルは、“○○○.cif”というように、ファイル名の拡張子を“cif”にしておく必要があります(“○○○”の箇所は任意)。例えばリガクのteXsanでCIFを書きだした場合、ファイル名は“CIF”となっておりますが、この場合は、ファイル名を例えば“compound.cif”というように変更してください(“compound”の箇所は任意)。
◎3.表示(V)-自動結合生成にチェックを入れておけば、大部分の結合は自動的に生成されますが、結合の過不足がある場合は手動で結合を追加、あるいは削除します。
◎4.X線構造解析の解析単位をそのままDV-Xα計算する場合はそのままでよいのですが、例えば錯陽イオン部分のみ計算する場合などは、DV-Xα計算に含めない原子は削除していきます。
◎5.X線構造解析の解析単位のみでは分子が完成せず、結晶学的な対称操作により原子群を発生する必要がある場合は、あらかじめCIFを作成する前に対称操作を実行し、DV-Xα計算しようとする原子座標はCIFに書き込んでおくとよいでしょう。うまくいかないときは、この下の◎15.【補足】の欄を参照してください。
◎6.表示(V)-オートスケールを解除すれば、コントロールパネルで分子全体の平行移動(X軸、Y軸、Z軸)、回転(X軸回り、Y軸回り、Z軸回り)ができますので、分子をなるべく正確に原点付近に移動します。擬似的にでも回転軸が存在するなら、回転の主軸はZ軸に合わせる方が好適です。
◎7.原子の座標値は、右上の三角定規に青丸のアイコンをクリックしてから画面上の1原子を指定することにより表示できます。特に原子のZ座標値は、数字で確認しないと直感的に分かりません。Z座標の値を0にしたい原子がある場合は、Z軸平行移動をするたびに原子をクリックして座標値の変化を確かめます。
◎8.ファイル(F)-エクスポート-TINKER(*,XYZ)を選び、Change Atom typeをOKし、”MOLDA.xyz”という名前で保存します。

【補足】:このとき加えて、ファイル(F)-名前をつけて保存(A)で、分子の原子座標をMOLDA書式でも保存しておいた方が、後々便利です。特にSCAT計算後、例えばLVLSHMでエネルギー準位図を作成する際、MAKEL04でL4とL05を作成し、その後L04を編集する作業が必要ですが、その時に、このMOLDA for Windowsで“*.mld”を開き、表示(V)-原子の番号表示に“レ”をつければ、どの原子が何番目の原子か、マウスの右ドラッグで分子をグルグル回転させながら原子の番号を見ることができますので、たいへん重宝します。
◎9.Molda for Windowsを終了し、DV-Xa環境molda2dvを起動しますと、“F01.DV”が出力されます。

【補足】:CIFは通常、Å単位での斜交座標で原子座標が記述されています。これをMOLDA for Windowsで読んで、molda.xyzで書き出したときには、Å単位での直交座標で原子座標が記述されています。これをmolda2dvでF01の形に整形しております。すなわち“F01.DV”は、Å単位での直交座標で原子座標が記述されています。
◎10.分子に対称を仮定して対称軌道を用いる場合は、対称軌道の作成が別途必要です(「はじめての電子状態計算」の第4章を参照してください)。このmolda2dvで作成されるF01.DVは、分子の対称は仮定しておりません。
◎11.F01.DVをF01にコピーします(COPY F01.DV F01)。
◎12.必要に応じて、F01を編集します。デフォルトでは、ノンスピンになっております。
◎13.makef05を起動します。原子数が100を超える場合は、dvxa\scat\makef05.fのディメンジョンの数を増やす必要があります。コンパイル方法等ご不明でしたら、坂根までご相談ください。

【補足】:CIF→Molda for Windows→molda2dv→F01.DV→F01という流れで作成したF01は、Å単位での直交座標で原子座標が記述されています。これをmakef05でF05に変換します。F05の中央付近には、原子単位での直交座標で、原子座標が記述されています。原子単位については、【6】DV-Xα分子軌道計算【補足】を参照してください。
◎14.計算しようとしているモデル全体が中性電荷であればそのままでよろしいのですが、例えば計算しようとしているモデルが錯陽イオンなど電荷を有している場合は、全電子数の調整、各原子軌道の電子数の調整(F05の前半と後半に2箇所同じような書式で各原子の原子軌道の電子数を記述する箇所があります)をする必要があります。

 例えば、[Co(NH3)6]3+であれば、全電子数から電子を3つ取り去り、コバルトの適当な外側の原子軌道から電子を3つ取り去れば作業終了です。

 具体的には、書籍「はじめての電子状態計算」の173ページ、付録D-2、F05の「電子数」と書いてある箇所が全電子数ですので、ここの数字から3をひいて書き換えます。次に「電子配置」と書いてある箇所が173ページに1箇所と174ページに1箇所ありますので、コバルト原子の電子配置から適当な外側の軌道から電子を3つ取り去り書き換えます。窒素や水素については、初期状態は(NH3)0との考えにたてば、電子数は変更する必要はありません。
◎15.【補足】単結晶のX線構造解析の結果、monoclinic, orthorhombic, tetragonal, tirigonal, hexagonal等、対称の高い空間群のCIFにおいて、CIFの中に計算する錯体分子の一部しか座標が含まれていない(空間群に基づく対称操作や並進操作で原子を発生させる必要のある)場合、MOLDA for Windowsでは、CIFを読んだ後に必要な原子を発生させる操作が困難な場合があります。そんな場合の対処法を以下にメモしておきます。

 まず、英国ケンブリッジ大学の結晶学データセンター(Cambridge Crystallographic Data Centre(CCDC))Mercury - Crystal Structure Visualisation and Exploration Made Easyにアクセスして、Mercuryをダウンロードしてください(Mercuryに関する情報が欲しい方は、Email:□□□□□に自分のe-mailアドレスを記入して[Subscribe]ボタンをクリックします。いらない方は、[Continue Without Subscription]ボタンをクリックします。次のページを読んで、[Accept]ボタンをクリックすると、Mercury 1.3のダウンロード画面に進みます。[Windows - 13MB]をクリックすると、Mercury1.3.exeをダウンロードすることができます。)。次に、ダウンロードしたMercury1.3.exeをダブルクリックして、Mercuryをインストールしてください。

 Mercuryを立ち上げ、File-OpenでCIFファイルを読み込みますと、自動的に必要な原子を対称操作や並進操作をして発生してくれると思います。これを、File-Save as...でFile Formatを【PDB files (*.pdb *.ent)】とし、適当な名前をつけて保存してください。

 次に、MOLDAのウェブページよりMOLDA for Protein Modeling 1.0をインストールしてください。MOLDA for Protein Modeling 1.0(Windows版/MacOSX版/Linux版)を選んで、[Start Installer for Windows...]をクリックすれば、自動的にダウンロードとインストールが行われます。

 MOLDA for Protein Modeling 1.0を起動して、さきほどMercuryで保存したPDB書式のファイルを読み込んでください。無事に読み込めましたら、必要な結合を生やすなどの操作はここで行うこともできます。適当な名前を付けてMOLDAの標準書式で保存してください(File-Save As...で、*.mld)。

 今度は、MOLDA for Windowsを起動し、さきほどMOLDA for Protein Modeling 1.0で保存したファイルをファイル(F)-開く(O)で開いてください。

 あとは従来の方法と同じ手順です。計算する原子だけ残して、なるべく原点付近に分子を移動し、必要なら回転操作を行って回転主軸をZ軸に一致させるなどの操作を行い、最終的にこれでよしとなったら、ファイル(F)-エクスポート-TINKER(*.xyz)を選び、molda.xyzという名前で保存してください。

 DV-Xα環境でmolda2dvを実行すれば、F01.DVができ上がります。これをF01にコピーし(copy f01.dv f01)、メモ帳などの適当なエディタでF01を編集作業してください。対称操作によって発生させた原子が混入している場合は、原子番号の大きい方から小さい方という順序になっていない場合があるかと思います。その場合はきちんと番号順に並べ直しておくとよいでしょう(並べ直さなくてもDV-Xα計算は回りますが、後々の整理のしやすさを鑑みて)。

 MOLDA for Protein Modeling 1.0でもTINKER書式にエクスポートできるのですが、MOLDA for WindowsでエクスポートしたTINKER書式とファイル形式が異なるため、MOLDA for Protein Modeling 1.0で書き出したmolda.xyzはmolda2dvでは読むことができませんので、ご注意ください。

 また、Mercuryで書き出したPDB書式ファイルは、MOLDA for Protein Modeling 1.0では正確に読み込めるのですが、MOLDA for Windowsでは原子名(元素種)を読み込まない場合があるなど問題があるため、いったんMOLDA for Protein Modeling 1.0で読み込んでMOLDAの標準書式で書き出したあとにMOLDA for Windowsで読み込んでおります。

 この補足の文章は現状でのとりあえずの問題回避法であり、将来はもっと簡単に作業できるように方法を探しております。何か良い案をお持ちの方は、坂根まで情報をお寄せいただけましたら助かります。

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岡山理科大学 理学部 化学科 坂根弦太

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